LOGIN【ユリアナ視点】
この日、夜明け後にわたくしへ使用人のサルチャクから報告があった。
まだベッドで起きてすぐに。「殿下がお見えです」
朝早くから?
そして報告したサルチャクは、諦めているような目をして疲労を見せていた。 ただ、わたくしにとっては驚きもしなかった。(やはり来ましたのね)
それだけの感情。
もう一度来るって事は予想できた。 先日の謝罪、殿下は頭を床につけて謝罪の言葉だけを伝えた。 跪いて、わたくしに許しを請《こ》うて。 明らかにおかしな状況。 しかも、何に対して謝罪をしようとしているのかを、何も言わず。 だからわたくしは、謝罪を受け入れられなかった。 婚約破棄に関する事かもしれない。 でも、それならば言ってほしかった。 理由も訊きたかったから。 謝罪だとすれば、今日は言ってくれるのだろうか。「通しなさい。でも客間とは違う場所に」
わたくしはそうサルチャクに伝えた。
「かしこまりました」
寝間着から着替えて、殿下が通されたであろう部屋に行ってみる。
殿下が通されたのは小さいながらも庭がよく見える部屋で、わたくしにとってはお気に入りだったりする。 彼はどんな言葉をわたくしに言うのだろうか。 そう思いながら部屋に。 部屋に入ってみると、そこには既に先日を同じような体勢を取った殿下が。「殿下」
わたくしは元婚約者でありながらも、冷たく淡々と言葉を話していく。
そして近くにある椅子に座って、話を聞くことにした。「また謝罪ですのね」
「俺は君のために婚約破棄をした。だが、それが正しかったのか分からなくなった」
やはり謝罪は、婚約破棄に関することですのね。
分からなくなったって。迷っているじゃないの。 だからこそ謝っているのだろうけれど、なら婚約破棄する前に、気づかなかったのかしら。 私は何も言わずに聞いていく。 すると、殿下は前世に関することを話していた。 前世ーー伝承等《でんしょうとう》で見聞きしたことがある。 別世界の人物が転生することがあると。 本当にあるのね。 しかも、殿下がその人物だなんて。 わたくしはそれでも驚きを見せず、ただ聞くだけ。 ”推し”って分からないけれど、前世ではわたくしを好いていたのね。 確かにわたくしも殿下を愛しているけれど。 なのに何で、わたくしを婚約破棄するのかしら。 それに、逃げていたって。「本当に申し訳ありませんでした!」
大きめの声で、殿下は謝罪する。
それから部屋には沈黙が流れていった。 沈黙を破ったのは、わたくしの声。「殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ」
彼にそう伝える。
すると驚きの表情をして、言葉を失った。「”安心したい”だけですわ」
そう、わたくしに謝罪して様々なものを戻そうとしている。
彼が壊したのに。 だけど、彼をこれ以上壊したくない気持ちもある。「確認したいのですけれど、前世の記憶が戻ったのは本当かしら?」
「あ、ああ。俺は亀山来人《かめやまらいと》という高校生だった」
だからこそわたくしは、彼に一つ一つ確認していく。
「推し、つまりわたくしを前世から好いていたと?」
「そうだ」
「イラスト……絵を描いていた、とか?」
「描いていた。一枚だけじゃなくて、何枚も」
殿下は全てに肯定して、嘘でないことを証明しようとしていた。
眉唾ものだけど、信じるしかないのかしらね。 前世のことに関しては。「分かりましたわ。ですが、殿下はわたくしの未来を壊した自覚はおありで?」
「あ、ある」
狼狽えながら返事をする殿下。
正しい王妃として、これまで勉強などをしてきた。 彼の逃げによってそれが無駄になってしまった。「それなのに、謝罪をしてすぐ戻そうと?」
戻れるなら戻ってもいいかもしれない。
無駄にはならないから。「もしもまた窮屈になったのなら、捨てるとかはないでしょうね?」
いくら王太子とはいえ、わたくしがモノ扱いにされているようなもの。
それは承服できない。「殿下、わたくしは”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません」
わたくしにとっては、婚約関係に戻ることもやぶさかではない。
だけどそれは、もう一度壊される事が無いという保証が無いと、無駄になる。「わたくしは、”選ばれなかった未来”を、二度生きるつもりはありませんの」
今の殿下にはそれが感じられない。
だからこそ、わたくしは殿下に伝えた。「それと殿下」
わたくしは立ち上がって部屋を出ていく。
「次にそのような姿勢を取るならば、”どう生きるか”を決めてからにしてくださいな」
彼にそう言い残して、謝罪の場は終わったのだった。
「…………」
扉を閉める音が、やけに大きく響いた。
表情を崩さずに部屋を離れていく。 まだ部屋の中には殿下がいる。 廊下を歩くときの足音は、いつもよりも一定に保っている気がしていた。「朝の空気は、冷たいですわね」
太陽は完全に昇っていて、水色の空が見えている。
橙色の部分はほとんどない。 門の前の人通りだって、昨日と同じような流れが出来ている。「はぁ」
ため息が出てくる。
わたくしは自室に戻ると、誰もいないことを確認して、手袋を外した。 それとともにほんの一瞬だけ、力が抜けた気がした。「殿下、わたくしをどうしたいの?」
ベッドに腰掛けると、さっきの事を思い出した。
『前世』、『推し』、『安心したいだけ』、そういった言葉が頭の中で反芻している。 感情は起こらないけれど、悩ましい。「破棄したけれども、異世界の記憶を思い出したから、戻したいって……」
都合が良い。
でも、嘘ではなさそう。 わたくしが好きで、わたくしの絵を描いていたなんて。 そこに、価値があることは理解できる。 けれど、それはーー惹かれる、とは違う。そして、”誠実”とは別問題。
(過去を思い出したから、許される。好きだったから、戻れる)
わたくしも前世を思い出せば、殿下と何も考えずに婚約関係に戻れるのかしら。
ならば今すぐに、前世を思い出したい。「そういう話ではありませんのに」
王太子や王は迷いがあってはいけないのに、今の殿下には迷いがありすぎる。
制御不可能なほど、自分で作った迷宮の奥へ奥へと、地図や灯りすらも持たずに進んでいるような。 わたくしは止められそうにない。 戻すにはどうすれば良いのか、と自分に問いたいくらいに。 殿下にとって、わたくしは何なのかしら。「推し……」
ふと、『推しだった』という言葉を思い出す。
あまり理解できない言葉。 明らかに好いていたという事だけは分かった。「わたくし、偶像でしたの? それとも”便利な安心装置”?」
崇められていたの?
前世の殿下から。 わたくしを教会の神みたいに? そうじゃないとは思うけれど。「本当、殿下は何を考えているのかしら」
『前世で好きだった』、だから捨てた後で拾いに来る。
わたくしはぬいぐるみみたいなおもちゃ、なのかしら。 いらなくなったけれど、捨てきれない。だから拾いに来る。 それと同じじゃない。「随分と、都合の良い”愛”ですこと」
すると窓から日差しが入ってくる。
ほんのり映るわたくしの表情は穏やかだったが、目は冷たい。「殿下は、わたくしを”選び直した”つもりなのでしょうけれど、わたくしは”一度捨てられた事実”を生きているのですわ」
手袋を付け直す。
そこからしばしの沈黙が流れていく。「ええ。二度目は、ありませんわ」
「お嬢様は戻りました」 そう言われるまで、俺は土下座をしたまま。 既に謝罪をする相手は、居なくなっている。 だから頭を上げてゆっくりと立ち上がる。「出口までご案内いたします」 使用人に案内されて、屋敷の外へ。 屋敷の雰囲気が冷たく感じた。 丁寧だが、最初に来たときよりも距離があった。 出ると、扉は静かに閉じられる。 だが音が重かった。(終わった、のか?) 屋敷を出たタイミングでも、その実感がまだ起こらなかった。 拒絶された実感すらない。 それは、『帰りなさい』や『お引き取りを』って言われず、使用人にも物理的な行動をされず、追い返されなかったのもあるが。 扉から門へと向かっていく庭の間にある道。 太陽は完全に昇っていて、空は水色に染まっている。橙色は少ない。(謝罪、受け取ってもらえなかった) ユリアナ嬢の言葉が、ゆっくりと頭の中で反響する。 『殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ』 『”安心したい”だけですわ』 『殿下、わたくしは”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません』 はっきりと、俺に突きつけた言葉。 正論であるが、ある意味断罪するような、冷たいもの。 でもそれだけ婚約破棄によって、ユリアナ嬢を傷つけた事になる。 明らかに俺が間違っていた。 時が戻れるなら、婚約破棄直前で俺を殴りたい。(俺は、許される前提で来ていた) 土下座をして、前世の事だけじゃなくて、全部を話した。 それで許されて、戻れると思っていた。 ゲームと同じような世界だから。 パワーの強い行動をすれば、ゴリ押せると。 でも結果は違っていた。 俺がしていたのは、謝罪ではなく、回復魔法。 壊れてしまった関係すらも戻せるような、ありもしない回復魔法唱えていた。 だからこそ、『謝ったから戻る
【ユリアナ視点】 この日、夜明け後にわたくしへ使用人のサルチャクから報告があった。 まだベッドで起きてすぐに。「殿下がお見えです」 朝早くから? そして報告したサルチャクは、諦めているような目をして疲労を見せていた。 ただ、わたくしにとっては驚きもしなかった。(やはり来ましたのね) それだけの感情。 もう一度来るって事は予想できた。 先日の謝罪、殿下は頭を床につけて謝罪の言葉だけを伝えた。 跪いて、わたくしに許しを請《こ》うて。 明らかにおかしな状況。 しかも、何に対して謝罪をしようとしているのかを、何も言わず。 だからわたくしは、謝罪を受け入れられなかった。 婚約破棄に関する事かもしれない。 でも、それならば言ってほしかった。 理由も訊きたかったから。 謝罪だとすれば、今日は言ってくれるのだろうか。「通しなさい。でも客間とは違う場所に」 わたくしはそうサルチャクに伝えた。「かしこまりました」 寝間着から着替えて、殿下が通されたであろう部屋に行ってみる。 殿下が通されたのは小さいながらも庭がよく見える部屋で、わたくしにとってはお気に入りだったりする。 彼はどんな言葉をわたくしに言うのだろうか。 そう思いながら部屋に。 部屋に入ってみると、そこには既に先日を同じような体勢を取った殿下が。「殿下」 わたくしは元婚約者でありながらも、冷たく淡々と言葉を話していく。 そして近くにある椅子に座って、話を聞くことにした。「また謝罪ですのね」「俺は君のために婚約破棄をした。だが、それが正しかったのか分からなくなった」 やはり謝罪は、婚約破棄に関することですのね。 分からなくなったって。迷っているじゃないの。 だからこそ謝っているのだろうけれど、なら婚約破棄する前に、気づかなかったのかしら。 私は何も言わずに聞いていく。 すると、殿下は前世に関することを話していた。 前世ーー伝承等《でんしょうとう》で見聞きしたことがある。 別世界の人物が転生することがあると。 本当にあるのね。 しかも、殿下がその人物だなんて。 わたくしはそれでも驚きを見せず、ただ聞くだけ。 ”推し”って分からないけれど、前世ではわたくしを好いていたのね。 確かにわたくしも
【ユリアナ視点】「……殿下」 |あの時《婚約破棄の日》、殿下が出ていって、扉が閉まった。 静かだったけれども、今までよりも冷たかった。 足音は遠ざかっていく。 わたくしは追いかけることもせずに、応接室で立ったまま。 遠ざかっていくと、応接室には静寂が訪れる。 聞こえるとすれば廊下を歩く侍女の足音くらいだろう。「本当なのね」 机の上に置かれた婚約破棄の書類を見てみる。 はっきりと、レオポルド殿下とわたくし”ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ”が婚約を解消する旨を書かれている。 殿下の署名もあるし、王家の印もあってこれが正式書類だって分かる。 偽造なんてありえないくらいに。「本当に、終わったのね」 わたくしは殿下との婚約を破棄された。 その事実は、時間が経つにつれてはっきりとわたくしにのしかかる。 殿下の、『君のため』という言葉が、胸に刺さる。わたくしのため? それなら、なぜ理由を言わないの? わたくしは……ただ、選ばれたかっただけなのに。「どうしてなの?」 何が原因だったのかしら。 思い出そうとしても、心当たりがない。 いつから殿下は、わたくしとの婚約を破棄しようとしたのか。 そのきっかけって何だったの。 わたくしはその際に、何をしてしまったのか。 思考を巡らせながらその心当たりを探っていく。 でも、見当たらない。 何がいけなかったのだろうか。 気づかないうちにわたくしは殿下へ、粗相をしていたのか。 わたくしすらも知らない癖的な言動が、殿下を失望させてしまったのか。 もしかしたら、その時にわたくしが謝って態度を変えれば、婚約破棄にならなかったのだろうか。 考えれば考えるほど、問いだけが増えていく。 けれど、答えに繋がるものは一つも見つからなかった。「分かりませんわ」 思い出してみるけれども、失言はしていないはず。 言動には気をつけていたはず。癖で出ていたであろうものも含めて。 婚約者として、殿下を支えていたはず。職務的なのも積極的に行っていた。 なのに、どうして。 ”王太子なのに”とか、”王太子失格ですわ”といった事を言って、殿下を否定した覚えがない。「……何も思い当たらない」 だから、さっき殿下が言っていた事を思い出す。 『君のためだ』
「う~ん」 俺は悩みながら、王宮の廊下を歩いていた。 あれ、何か新鮮だな、この廊下を歩くのも。理由は分からないが。「それにしても」 ずっと歩いているのが新鮮に感じてしまう事、に関してはどっちでもいい。 今の状態としては、別の事で悩み中だ。「ユリアナ嬢、許してくれるかな」 二度目の土下座をしたいが、いつにするかを決めかねていた。 すぐにユリアナ嬢の屋敷へ向かっては、呆れられるだけだろう。 だから、多少は時間を置いて謝罪をしたほうがいい。 でも、どのタイミングで? それが一番の悩みだ。 顎に手を当てながら考えていた。「殿下、何か悩まれているのでしょうか?」「すまない。変なところを見られてしまって」 クレア嬢が俺の様子を見て、微笑みながら優しく話しかけてきた。 しまったな。 彼女は当事者じゃないのに。 俺とユリアナ嬢の問題だからな。「もしかして、ユリアナ様の事でしょうか?」 分かるのか。 確かに先日、婚約破棄したことを伝えている。 だから察しがつくだろうな。「ああ。婚約破棄してから、冷静になってみたんだ。そうしたら、間違いだって思うようになってな」 そのため、俺は表面上であるがクレア嬢にユリアナ嬢への気持ちを伝える。「ま、間違いですか」 そう口にしながら、クレア嬢は一瞬だけ視線を落とした。 まるで、答えが分かっていたのに、聞いてしまったかのように。「謝罪をしたんだが、受け入れてもらえなかった」「せ、先日のってそれですか……」「ああ、そうだ」「ゆ、ユリアナ様と……」 クレア嬢の目が一瞬、悲しげに揺れた。彼女も、何かを知っているような……? それに言葉が震えまくっている。 何が起きているんだ。「大丈夫か?」「は、はい」 落ち着かないな。 さっきまでは平常だったのに。 悪いことでも言ってしまったのか?「もしも再び謝罪をするなら、いつが良いだろうか?」「そうですね。すぐでもいけませんし、時間が空きすぎてもいけませんので、数日後がいいかと」 数日後か。 確かにそれが良いかもしれない。 やがてクレア嬢の様子は、完全ではないものの徐々に落ち着いていって、普通に話していた。「ありがとう」「……殿下の謝罪が上手くいくといいですね」 ぎこちない微笑みを見せながら
数日後、王宮にある応接室。 そこで俺は立ってある人物を待っていた。 侍女を通じて、やってくるように伝えている。「失礼いたしますわ」 やってきたのはユリアナ嬢。 礼をしながら応接室に入ってくる。 いつもと変わらない表情をしていて、何も不安に思っていない。「来てくれてありがとう。時間は取らせない」「殿下、どういった用件でしょうか?」 一呼吸置いて、伝えることにする。「君との婚約を、ここで解消したい」「……っ!」 ユリアナ嬢は驚いた表情をしていた。 確かにそうなるよな。 でも取り乱すこともなく、ただ考えているようだった。「理由を、お聞きしても?」 次に彼女が口にした事は理由を訊ねるもの。 彼女には心当たりが無いようだ。 俺は彼女に視線を合わせず、書類を差し出す。 それは、婚約を解消する旨を書いたもの。 これによって、完全に俺とユリアナ嬢は婚約を解消することになる。「理由か。これは、君のためだ」「わたくしのため?」 きょとんとしている。「君は、正しい王妃になる人だ」 それは間違っていないと思う。 ユリアナ嬢と結婚すれば、彼女は正しい王妃になれるだろう。「だが、俺にはそれを受け止めきれなかった。それ以上の説明は、出来ない」 俺は謝罪をせず、ただ理由を伝えていく。 それを感情もぶつけずにユリアナ嬢は聞いていた。 言葉を遮らず、ただ淡々と。 俺の言葉が終わると、ユリアナ嬢が口を開く。「わたくしが、殿下のお役に立てなかったのでしょうか?」「いや。何も」 その問いかけに対して、俺は間を置かずに答えていく。 即答と言ってもいいくらいに。 確かに彼女は悪くない。 役に立っている。立てなかったことはない。「これまでの尽力に、感謝している」 俺はユリアナ嬢に一礼をして出ていこうとする。 彼女は俺に縋るわけでもなく、ただ俺を見ていた。「必要な手続きは、後日こちらで行う」「分かりましたわ、殿下」 彼女は泣くことはなく、怒るわけでもなく、俺に対して一礼を返した。 姿勢は正しく、王太子の婚約者としては相応しいように思える。 だが、少なくとも今の俺には受け入れられなかった。 俺は応接室を出ていく。 この時点で、俺とユリアナ嬢の婚約関係は終わったのだった。「何故なん
時間は数週間前に戻る。 いつものように公務が忙しかった。「この部分だが、君はどう思う?」 俺は王都にあるシュナイエ王国の王宮において、青髪の子爵令嬢《ししゃくれいじょう》のクレア・ユングホルツ嬢に意見を求めた。 資料の確認をするためだ。「私は、殿下のご判断が最善だと思います」「そうか」 クレア嬢は決断をしなかった。 俺の判断が正しいと言ってくれた。 その途端に、肩の力が抜ける。「君の意見で確信が持てた。ありがとう」「いえ、殿下の考えは正しいですから。あなたは王太子ですので」「王太子、か。確かにな」 俺はちょっとクレア嬢に笑みを見せる。 すると彼女も微笑み返した。「ふふ、そういったところ、魅力的です」「そう言ってくれると嬉しい」 クレア嬢は肯定的に捉えてくれる。 それが俺の心を惹きつけた。 婚約者がいるのにな。 クレア嬢は、迷うことそのものを否定しなかった。 それが、俺にはありがたかった。「そうだよな」 俺は彼女に対して、そう呟いた。 だからこそ、意見を訊くんだよな。(俺だって迷うよな)「クレア嬢、ちょっと良いだろうか?」 何日かして、彼女に意見を求めた。 ちょっと遠慮がちに。「迷われていますのね」「ああ」 彼女は俺の様子を察して、優しく微笑んでいた。 少々安心する。「俺だってただの人間だからな」 先日クレア嬢に言ってくれた事を返した。「勿論ですよ。迷われるのは、真剣だからだと思います」 クレア嬢は頷きながら俺の事を肯定してくれる。「私としてはーー」 そして意見を言ってくれた。 俺は楽になった気持ちになる。「ありがとう。つっかえていたものが取れた気分だよ」「ふふ、そんな所が私はお好きですよ」 笑顔を見せてくれるクレア嬢。 水が流れるように、俺は楽な方向へ心が向いていく。「君は縛らないな」「そんな。私はただ、殿下を尊敬しているだけです」 彼女がそう言ってくれる事に心が温かくなる。「あのレオポルド殿下、お疲れではありませんか?」 少し経って、業務が終わったタイミング。 そこでクレア嬢は話しかけてきた。「疲れか。そう見えるのか?」「はい」 俺では気づかなかったが。 彼女は気がつくのか。 確かに自分の事を気づきにくいってよく言われるが







